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名前で呼ばれた。そして彼がとても緊張した顔で千夏を見下ろしている。身体が大きいからそんなに真っ正面に立ち塞がれると千夏なんか隠れてしまいそう。そんな大柄な彼の手が千夏の目の前に……。
「あの、あの」
その手が震えている。でもその両手が最後にはがっしりと千夏の両肩を掴んだ。すごい力、肩が痛い。でも大きな手が千夏を捕まえて離さない。
「どうしたんですか。主任が会社でそうなるってよっぽどでしょう」
「……けい、ないじゃない」
「そりゃ、関係ないけど。でも、やっぱそんな顔見せられたら放っておけないですよっ」
「……な……してよ」
「いいえ、放せません」
涙声でくぐもっていても、何故か河野君はしっかりと千夏の呟きを聞き取っていた。
「帰りたいの。放して」
河野君の大きな手が、千夏の肩から離れる。そして彼自身も千夏の前から引き下がった。
「帰るんですか」
「うん、大失敗しちゃって。課長に帰れて言われたの」
「あの佐川課長がそこまで言ったんですか」
「そうなの。でも、一番何が悪かったか自分で判っているから。課長の言うとおり、頭冷やすために今日は帰る」
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