イニング3 【 九回裏◇念ずればヒットする! 】

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 加減、わからないのかな。彼の大きな手に包まれた自分の肩がすごく小さくか細く感じた。肩肘張って生きているそんな女の、華奢で折れそうな骨格。自分自身でそう感じてしまうなんて初めてだった。  それを彼が力の加減も知らないで握りつぶすかのように……。女の子に触ったこともないような、ぶきっちょな触れ方。でもその力が熱く残っている。  会社を出て近くにある路面電車の停留所に立つと、濡れた緑の城山から天守閣。曇天に小さく切り取られた青。傘も要らない帰り道になりそう。  小さな路面電車に乗り込み、がたごとと揺れる中、千夏は家路を辿る。その間、千夏がずっと感じていたのはしょっぱい涙の味ではなく、肩にある痛みだった。     ―◆・◆・◆・◆・◆―
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