イニング3 【 九回裏◇念ずればヒットする! 】

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 堀端でのランチも再開。たまに河野君が堀の向こうを通って手を振ってくれる。もう千夏のところに駆けては来ないけど。でも、今の千夏は素直に彼に手を振り返している。そんなちょっと何かがしっくりしなくなった日常を送っている。 「お疲れ様でしたー」 「佐川課長、終わりましたか?」  若い彼等が仕事が終わるなり課長のデスクにやってきた。 「うーん、ちょっと一時間かかるかな」 「じゃあ、俺達は外で時間潰していますね」 「一時間したら戻ってきます」  佐川課長が『わかった』と笑顔で答える。若い彼等となにか約束をしているようだった。 「珍しいですね。彼等とおでかけですか」 「まあね。男同士の約束」 「部下とコミュニケーションを図れるのは良いことです。特に若い彼等に慕われることも」 「新鮮なんだよね。コールセンターでは女性ばかりだったから」 『ああ、なるほど』と千夏。男性社員同士で戯れる機会がなかったことに納得。そんな課長が窓の外を見て微笑んでいる。どこか遠い目ででも優しかった。女性からのプレッシャーが多い職場だっただろうけど、彼が歩んできた全てがそこにあるからなのだろう。
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