1908人が本棚に入れています
本棚に追加
/281ページ
四人が仲良くコンサル室を出ていこうとする背中を眺めつつ、男同士の時間に水を差すと躊躇ったのだが千夏は決する。
「待って! 私も連れて行ってください!」
手を挙げて彼等を引き留める。一斉に振り返った彼等が、河野君ですら目を丸くして驚いている。
なのに。佐川課長だけが意味深な笑みをニンマリ。何もかも見透かされているようだった。それでもいい。千夏はそう思っている。
―◆・◆・◆・◆・◆―
古ぼけた黒いバッティンググローブ。それがあの大きな手にはめられる。
太いけど長い手が銀色の金属バットを握った。白いシャツ姿のままなのに、そこに立つ男は会社員ではなく既にアスリートの横顔。
バッティングフォームが整うと、目にも止まらぬ物が彼へと向かってくる。その時、いつも笑っているにこやかな細い目がぐっと険しく強く前を見据えられ、彼がバットを豪快に振る。『カキーン』と空高く鳴る音。ナイター照明の煌めきに吸い込まれていく白い球。もの凄く力強く返されたはずなのに、まるでふわりと軽く宙に浮いたように見えた。
最初のコメントを投稿しよう!