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さて。その佐川課長の進歩やいかに。彼がバットを持ちフォームを整える。さっきの河野君のようにざっと男らしく力強い姿で綺麗に白球を光の中へと打ち返す姿を期待し……
「あ、くそっ」
バットを振ったのに、球は佐川課長の背後、床に転がり落ちていた。
「うーん、このやろっ。それっ、よっしゃー、当たった!」
ヒットしたが手前に球が飛んだだけで地面に落ちコロコロ。飛距離はそんなにない。だいぶ遅いスピードの球のはずなのに、佐川課長のヒット率はかなり低い。まさに『運動出来ない男』の姿が本人の自覚通り、嘘偽りなくそこにあった。
「……やっぱ、課長は俺らといっしょだったな」
「うん。なんか河野さんが簡単に打っているから、いっしょに通っていた課長も出来る絵を想像していたけど。元球児と同じようにはできないわな」
若い彼等のホッとしたような、ちょっと呆れたような顔。
オフィスでは手際よく頼りがいある穏和な男性だが、向かうところが違うと本当に『ただの男性』に見えた。なのに……。やってみたかったのひとつで、あのバッティンググローブを買ってしまったのかと。なんだか少年のようで、千夏はつい笑ってしまいそうだった。
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