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「はー、駄目だ。全然、上手くならない」
課長がため息をついて帰ってくる。何球かポクポクとヒットしたが豪快な当たりはナシ。撤退してきた課長は、もう息を切らしていた。
「ちょっと休もうか。あっちで冷たいものでも飲もう」
早速リタイヤ宣言をした課長だったが、若い彼等はもう飽きてしまったのか『いこう、いこう』と課長についていく。
「河野君は、まだ打つだろう」
「はい」
「落合さんもやってみたら。河野君、教えてあげて」
いつもの笑顔の佐川課長だけれど、二人きりにしてやろうという魂胆丸見え。
「いや……、でも女性の主任は……どうかな」
遠慮する河野君の声がとても乱れていた。息切れなんかしない力強い運動をしていたのに……。『無理強いはしない。もう二人きりになっては彼女の負担』。そう気遣ってくれているのがすごく伝わってくる。……今日、私は彼を避けるために来たんじゃない。だから。
「教えて。せっかく来たんだもの」
きっぱりした千夏の返答に、佐川課長はニンマリとし河野君はやっぱり困った顔をしていた。
「教えて」
千夏もバットを持った。
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