イニング3 【 九回裏◇念ずればヒットする! 】

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 バットを手にパンツスーツ姿の女が打席に立つ。 「ええっとですね、バットを持ったら……」 「どうでもいい。私、さっき河野君が打っていた速い球でやってみたい」 「はい? えっと、あれって140キロなんすけど」  わかっている。 「いいの。やってみたいんだから」 「まあ、そういうなら……」  初めてバッターボックスに立つ女の無茶振り。『絶対打てない』ことが許せない元球児には納得できないようだった。それでも渋々とそのとおりにセットしてくれる。 「球、来ますよ」  ネットの外から河野君の声。  見よう見まねで構え、千夏は前を見据えた。……来た! ヒュッと言う音を感じて振り抜いたが、やはり背後でバスッと抜かれた音。うっそ、見えなかった。それでも千夏は何度も構え直し、球に向かう。だが同じ事の繰り返し。 「なにこれっ」 「だから言ったでしょ。落合さんはいま、プロ野球の投手を相手にしているようなもんですよっ」 「プロ野球ですって。益々燃えてきたわ。このまま行く」 「もう、なんていうか。……らしいっすねえ」  河野君の呆れた声が聞こえてきた。さらに千夏の目の前を反応する間もなく高速で過ぎていく白球達。
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