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だけれど、千夏にはその高速で過ぎていくものにゾクゾクしていた。これを、あの大男は一球も逃さずビシバシと捕らえ打ち上げているんだって。これが彼が追ってきたもの、これが彼の……彼という男を作り上げてきたもの。すごい、すごいわ。打てないのに千夏は打席で微笑んでいた。
「やっぱ無理」
球がなくなり、千夏はバットを降ろす。だけれどなんだか胸がドキドキして興奮していた。
「相変わらず強気っすねえ。感心しますよ」
「うるさいわね。もう一度同じのやって。打てなくてもスピードを体感したいの」
「了解です」
もう彼も止めない。千夏の好きにさせようと思ってくれたよう。
打てなくても、千夏はまた打席で構える。
「来ますよ」
来る――。あら? 今度は球が見えた!? フォームなんて知らない。とにかく振り抜いてみたら、カキーンという音が自分の耳の直ぐ側で聞こえた。『え』と上空を見上げると緑のネットに囲まれた夜空と照明の輝きの中に白い球!
「わ! マジで打った」
「えー、うっそ!」
結構飛んでびっくり! 自分でもびっくり!
河野君も驚いたのか、千夏が呆然と見上げている打席まで駆け込んできた。
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