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興奮している勢いなのか、彼の大きな手が突然がしっと千夏の腰を掴んだのでビクッとする。でも彼はお構いなしに千夏の腰の位置を決めると、今度は床に跪いて足首を握っている!
「足も開きすぎです。こう肩幅で、それで左右の足の体重移動はこう……」
真剣な顔。でも素直にそれに従う。
「それでバットは傘を持つような感じで、ぎゅっと脇を引き締めるイメージがあるでしょうが、ゆったりと」
足下が整うと、次に河野君は千夏の背後に回ってきた。一緒にバットを握りしめると……大きな彼に、後ろから大きくつつまれ……。
「そう、ゆったりと。トップはここで決めて、球が来たらこう……引くイメージで……」
大きな身体の彼の胸元にすっぽり収まる小さな自分。大きな手が迷うことなく千夏の身体に触れていた。
あの時、泣いていた千夏の肩を掴もうとしているのに、迷って震えていた手。それを思い出していた。でも、野球となったら迷いがない彼の手。あの震えていた手は……千夏のことを、か細い女に見せてくれたあの手は。
「そのイメージで振ってみてください。」
「わかった。やってみる」
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