イニング3 【 九回裏◇念ずればヒットする! 】

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 その後、河野君も千夏の隣りの打席で140キロをバンバンと打ち始めた。千夏も打った。  ベンチで佐川課長が『女の子に越された』と嘆いてムキになっていたとかいう姿はもう、千夏には見えなかったようだった。    この翌日、千夏は会社に出勤した後、佐川課長にあるお願いをした。 「課長、私、ミットが欲しいんですけど」 「ミット? なんで。あ、河野君へプレゼントとか?」  あのバッティングセンターでのひととき。息が合っていた二人に課長は満足そうだった。これで千夏と河野君が上手く行くと確信したような顔をしていた。  でも、そこのところやはり佐川課長は分かっていない。千夏のなかなか溶けない心の本質を知らない。彼にとって千夏の女心はやはり他人事。 「違います……」 「じゃあ、どうして」 『どうして』について返答すると――。  課長はとても驚いた顔をした。 「い、いいけど。僕なんかでいいのかな」 「お願いします。他にお願いできる方がいないので」 「わかったよ。うん、じゃあ……今日、仕事が終わったらミットを買いに行こう」  願い通りに、千夏はミット購入。それを手にして彼にあることを申し込みにシステム課へ向かう。
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