イニング4 【 延長戦◇奇跡がおきれば決められる 】

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「河野君にはわからないかもしれないけど。一歩先に踏み出そうと思えるようになっても、長く立ち止まっていた今の私には駄目なのよ。つまり『きっかけ』。ここまで足下が雁字搦めになっちゃっていると、馬鹿馬鹿しいほど簡単なきっかけじゃないと、きっともう駄目なの。それが欲しい」  告げると、やっと河野君の顔が落ち着き、千夏を見つめていた。 「それって。俺に、望みがあったと考えていいんですか」 「いいから、言っているんだけど……」  ほぼ告白に近かった。だけれど、もう『好きです、好きになりました』の言葉を交わしただけで、喜べる年齢ではない。ただつきあうだけの関係は、もういらない。それは、つまり。それをそのまま彼に告げる。 「ただの好きじゃ、もうだめなの。ただつきあうことも、そして結婚することも、今の私はどっちも『怖い』の……。わからないでしょう」  だが彼は真顔で言った。
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