イニング4 【 延長戦◇奇跡がおきれば決められる 】

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 うん、鬱陶しかった。心でだけつぶやき、でも千夏は笑っていた。 「お願い。きっかけが欲しいの。ここに立っているきっかけはなんだと思う?」  彼が首をかしげる。 「この前、打てそうにない球を打てたから。河野君が打たせてくれたから。意地っ張りの私がどうすればうまく打てるか、黙って見て黙って……」  黙って騙してうまく乗せて。これだったら出来るよと体感させてくれたから。  でもあと一つ、あと一歩、大きなきっかけがあれば……。 「わかりました。俺もその賭、乗ってみましょう。でも投げて捕るって。ルールはどうするんですか」  そして千夏も決めていたことを、彼に教える。 「奇跡のバックホームをやるの」  そう言っただけで、商業野球部出身の彼が仰天した顔になる。 「無理、無理っすよ……」  思わずつぶやいた河野君だったが、それも一瞬。  『そうですね。それぐらいじゃないと、結婚は』と言った。    ―◆・◆・◆・◆・◆―    日が長くなった夕。晴れたその日。千夏は佐川課長の車に乗せてもらい、約束の場所へと向かう。 「河野君、今日は外回りだって?」
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