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シートベルトを外した課長から、先に車を降りていく。
助手席の千夏はミットを胸に深呼吸。それから車を降りる。
「お疲れ様です、佐川課長」
「お疲れ、河野君。なんか、立会人とやらを頼まれちゃってさあ。一緒に来ちゃったんだけど」
戸惑っている佐川課長は、聞き分けない長年の後輩である千夏が譲らないだろうから、まだ柔軟そうな彼に言って『僕って必要ないよな?』と同意を求めている。
だが河野君は課長が期待したものではなかった。
「俺からもお願いします」
河野君も、神妙に頭を下げお願いしてくれている。
それでも課長は『え、そうなんだ』と意外そう。
それもそうかと千夏は改めてため息。千夏の気持ちを知らない佐川課長は『なぜ、僕が立会人?』と不思議でしようがないのだろう。でも河野君は、立会人をお願いしたのは『これできっぱり佐川課長への想いも断ち切る』ことを意味し、千夏が決意していることを察してくれていた。本当に彼は千夏をよく見てくれていると痛感する。
「じゃあ、早速、始めましょうか」
彼にも戸惑いはもうないようだった。車の助手席のドアを河野君が開ける。そこから使い込まれたグローブが出てきた。
「一発勝負でしたよね。千夏さん」
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