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プロポーズはなんとなく、だった。
なんとなくと言っても、僕としては『いま、言っても良いのかな。どうなのかな』の数ヶ月ではあった。
「揃って入社したのがつい最近のようだけれど。お互いに三十代になっちゃって、あっという間だったわよね」
連絡先を交換してから、美佳子とは仕事後に落ち合って食事やドライブに行くことが多くなった。土曜日曜も約束をするようになった。
特になにがあるわけでもない地方の街。ドライブでちょっと遠出をすれば内陸は山間の田舎にぶち当たるし、海へと向かえば静かな海岸線に漁村にたどり着く。だけれども、そういった子供の頃から変わらない僕たち故郷の穏やかな風景を眺めつつ、車の中でひたすら喋って、腹が空けば見つけた店に入って『美味い、美味くない』と話して二人の時間を過ごす。そういったありきたりだけれども、確かな『恋人の時間』を重ねてきた。
「確かに。入社から十数年、あっという間だったね。それじゃあ、お互い『適齢期ギリギリ』ってことで結婚してもいいかもな。丁度、一緒にいる今、とか……、なんて……どうかなって」
長い長い田舎の海岸線をひたすら走っている時に僕は呟いた。助手席にいる彼女の顔を確かめるだなんて、出来るわけがなかった。
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