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背後からまたため息。よくそれで勝負に打って出たなと言いたそうな顔を課長がしている。でも言っても無駄、彼女らしいと呆れているのも。
「あ、でも。落合さんは僕と違って運動神経良さそうだしな。100キロ打っちゃったんだから」
実際に、スポーツは得意な方だった。だからとてイケルとも思っていない。どんな球が飛んでくるかもわからない。
勝負勝負というけれど、そうじゃない。勝負するなら練習をする。勝てるように。そうじゃない。これは『きっかけ』。捕れたらよし、捕れなかったら……。
『千夏さーん、行きますよー』
広場の向こうにたどり着いた河野君が手を振った。千夏も無言で手を挙げる。
ついにその時が来る――。
彼のグローブに右手が隠れる。ミットを構え、そこに自分のこれからを決める白球があることをイメージをする。
――じっとこちらを見据えている彼。
たった一球、彼にとっても今までの想いを込めた一球になるだろうから、集中しているのが伝わってくる。どんなに長い間でも千夏もミットを構えて待つ。
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