シーズン2 【 婚約 】*プロポーズ。でも僕はなにももっていないよ?*

3/11
前へ
/281ページ
次へ
 美佳子が黙る。一瞬だけ。あまりお喋りじゃない僕の代わりに、いつだって美佳子だけが喋っているのに。  彼女の顔を確かめたいのに、平静を装って確かめない僕。冗談で笑い飛ばせばいいのに、一瞬黙ってしまった美佳子。  しかし彼女も平静を装うとしたのか。 「んー、そうねえ」  すぐに沈黙から脱したのに、次に彼女から出た言葉は。 「そうだね。結婚しましょうか」  ――だった。  今度は僕が沈黙する。というか、僕はだいたい美佳子に喋らせている。彼女から振ってきた話題に真剣に答えて会話をして笑って――。彼女が喋らなければ話題を振ってくれなかったら、僕は長時間一緒にいるには退屈な男なんだと思う。いつだって沈黙の僕が、さらに沈黙する。でもまた平静を装わなければならない。 「そうだな。結婚しよう」  やっと言葉に出来たのに、自分から問いかけたのに。僕には一抹の不安がある。
/281ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1915人が本棚に入れています
本棚に追加