1915人が本棚に入れています
本棚に追加
美佳子が黙る。一瞬だけ。あまりお喋りじゃない僕の代わりに、いつだって美佳子だけが喋っているのに。
彼女の顔を確かめたいのに、平静を装って確かめない僕。冗談で笑い飛ばせばいいのに、一瞬黙ってしまった美佳子。
しかし彼女も平静を装うとしたのか。
「んー、そうねえ」
すぐに沈黙から脱したのに、次に彼女から出た言葉は。
「そうだね。結婚しましょうか」
――だった。
今度は僕が沈黙する。というか、僕はだいたい美佳子に喋らせている。彼女から振ってきた話題に真剣に答えて会話をして笑って――。彼女が喋らなければ話題を振ってくれなかったら、僕は長時間一緒にいるには退屈な男なんだと思う。いつだって沈黙の僕が、さらに沈黙する。でもまた平静を装わなければならない。
「そうだな。結婚しよう」
やっと言葉に出来たのに、自分から問いかけたのに。僕には一抹の不安がある。
最初のコメントを投稿しよう!