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「別に私はもうなんとも思っていないんだけれど。彼も彼女も、仕事の伝達以外は近寄ってこないわよ。仕事で話す時だって目も合わせてくれない」
「いいんじゃないの。そのまんまにしておこう」
「そうだね」
淡泊に返した僕に、美佳子がちょっと申し訳なさそうに短く返答し話題を切ろうとしているのが窺えた。
これが『美佳子の負い目』というものだった。美佳子と急接近したキッカケが彼等との諍いだったから。あの年下の男が話題に出るたびに、僕が気を悪くすると思っているのだろう。
美佳子と噂になった大人の男達とは何かあったかもしれないのに、僕は腹も立たず。なのに『なにもなかった』とフィアンセが言っているのに、その年下の男に僕は腹を立てている。何故だろう。何故なんだろう。
ずっと後で気が付いた。
僕と美佳子の結婚を決定づけたキューピットが最悪な男だったからだ。
そうでなければ、僕は彼女と結婚できない男。あの男のおかげで結婚できた? なんだか『俺のおかげなんですよ』とそいつが笑っている気がしてならない。
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