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婚約の話題も落ち着いた頃、美佳子が『会社を辞める』と決意した。
僕は止めなかった。いや、本当は続けさせてあげたかった。僕も将来が見えない保証できない安月給の主任なので、妻にも稼ぎがあるのはとても心強い。
しかし同期入社で同じ部署に夫妻がいるのは会社側も考えるだろう。そんな時、美佳子に『他センター転勤、異動』の打診があったとのこと。僕じゃなくて、美佳子に。やっぱり僕は女の子部署の『宥め役おじさん』と化していくことしか望まれていないようだった。
そんな美佳子が決めた答が『辞める』だった。
「支局センターが違うだけで同じ仕事だからいいんだけれど……」
条件は同じだった。ただ僕と美佳子が通う場所が異なり離れることだけ。同じ市内で勤めるから自宅からも遠くはない。帰る家は一緒なのだから、続けることも可能だった。それでも美佳子は『辞める』と決意した。
僕からは何も言わなかった。彼女がそう決めたなら――としか。
「ごめんね。私も稼いだ方がいいんだろうけど。なんかね、やっぱりここ半年、すごく疲れた……」
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