シーズン2 【 婚約 】*プロポーズ。でも僕はなにももっていないよ?*

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 彼女が明るくしているから、僕は気づかなかったのかもしれない。僕が思っている以上に傷ついて、たった一人の時には自分で自分を責めたり、そして一人ならば彼等のことも許せずに悔しさで震えていたかもしれない。そんな蓄積が、結婚という機会に溢れ出てしまったのではないだろうか。彼女には休養が必要かと僕は思ったりした。 「気にするなよ。僕の稼ぎは少ないけど、なんとかやっていこう」 「うん。別に贅沢なんて望んでいないから。私、徹平君が側にいてくれたらそれがいい」  なんていじらしいことを。ありふれた女性からの言葉でも、いまはちょっとでも甘い気分になれる結婚間近の男としては感無量の瞬間。  彼女を抱きしめて、柔らかなキスをする。そうしたら彼女が僕の中に溶け込んでくれる。艶やかな黒髪を撫でて、近くに寄らないと解らない美佳子の匂い胸いっぱいに吸い込んで、それで僕も満足する。  僕たちは今、甘くときめく恋人同士、婚約者。そして……夫と妻になるんだ。  なにもいらない。美佳子はそういうが、でも、僕って本当に何も持っていないよ。本当にいいんだよな?
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