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前置きも何もなく、そのまま彼は僕のところまで一直線。気が付いた時はもう、彼が拳を振り上げていた。
どこからともなく『きゃあ』という女性の声が聞こえ、僕の顔が勢いよく横に飛ばされた。頬に熱いコーヒーの粒もぼたぼた飛んできた。
「コールの段階で食い止めるのが、アンタの仕事でしょ。対応できないからって部長にすぐに報告するだなんて、この役立たず!!」
それだけ吐き捨てると、彼も大きく一息。どこか後悔したような顔で拳をみつめ、唇を噛みしめながら背を向け去っていった。
僕の白いワイシャツに、大きな茶色の染み。そして口元に指を当てると、少しだけ血が滲んでいるのに気が付いた。
「徹平君、大丈夫!?」
「主任、大丈夫ですか」
僕と同じ時間に休憩となった顧客対応班の彼女達がちょうど目撃してしまったようだ。
ベテランのパートおばちゃんと、社員の若い女の子二人が一緒に駆けてきた。
「あの青年社長の担当だよね、彼。ちょっとやりすぎだよこれは」
おばちゃんはすぐさまハンカチを手に、僕の胸元を拭いてくれる。側にいた女の子二人も迅速に掃除用具を持ってきて、あたりに零れたコーヒーの跡を拭いている。
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