シーズン3 【 新婚 】*疫病神がコウノトリ*

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 車に乗っても、僕は自宅へまっすぐには帰らなかった。  いつもと違う道を車で走り、郊外にある紳士服店へ向かう。そこで真っ白なワイシャツを買い、汚れたシャツを脱ぎ捨て着替えた。染みになったシャツはそのまま店で捨ててもらった。  帰る道。信号待ち。フロントミラーに映る僕の口元。切れて赤黒くなっている。これだけは誤魔化しようがない。それでもあんなみっともない染みがついたシャツで帰りたくなかった。美佳子に洗わせたくなかった。僕もそんな情けない姿で帰りたくない。たとえすぐにばれてしまっても、無様な姿は彼女の目に焼き付けたくない。そんな『せめてもの思い』でシャツだけは綺麗にして帰ろうと思った。  美佳子になんて言おう。そのうちに女同士のネットワークで知られてしまうだろうから、ある程度は話さなくてはならないだろう。そんなこと僕は嫌だけれど、元同僚だから本当にこんな時は誤魔化しようがない。美佳子が不審に思えば、僕が口を閉ざしてもすぐさま調べがついてしまうだろう。 「ただいま」  新居に帰ると、また今夜も夕飯のいい匂いに包まれていた。 「あれ。徹平君。早いじゃないどうしたの?」
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