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「まあね。でも完全に彼のミスで、課長も営業部長も所長も僕の判断を擁護してくれたから大丈夫」
「大丈夫って――!」
ほどいたネクタイをクローゼットに戻し、買ったばかりの白いシャツを僕は脱ぎ始める。
「美佳子はなんにも気にしなくていいんだからな」
なるべく、優しく言ったつもりだった。だけれども、肩越しに振り返ると彼女はもう泣いていた。僕と目が合うと彼女がシャツの背に抱きついて泣き出した。
「私のせいよ!」
「ちがうよ」
「あの人。私達の結婚が決まった後に立場が逆転して悪い男みたいにされていたから、徹平君を恨んでいるのよ。私が、私が、あんな男と関わって、それですぐに徹平君を頼っちゃったから!」
「ちがうよ」
本当に美佳子のせいだなんて思っていない。でも僕はこの時、とてつもなくムカムカしていた。
ああ、いつも通りに。ただ『おかえり』て抱きついてくれる奥さんのお迎えでこの家に帰りたかった。着替える僕の背中で、晩飯のメニューを語ってくれる彼女でいて欲しかった。
なのに今夜は僕と美佳子の間に、あの男がいる。
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