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僕の今日の怒りの核心はそこにある!
「徹平君……ごめん」
「……今日の晩飯、なに」
涙を拭いた彼女が、なんとか明るく努めようと笑顔になる。
「キビナゴの天ぷら」
「え、もうそんな季節なんだ」
「ビールで食べる? それとも吟醸酒にする?」
「ビールでいいよ」
酒も希にしか呑まない僕だけれど、季節の肴が出た時には呑むこともあった。僕の趣向を分かって妻の美佳子が滅多に呑まない酒を準備してくれていた。
「私ももらっちゃおうかなー」
涙目なのに笑っている彼女が痛々しかった。
彼女はなんにも悪くない。ただ僕が。片思いだった彼女を運良く嫁にしてしまったが故に。いっちょうまえに男として、あの彼を意識しているだけなのに……。
―◆・◆・◆・◆・◆―
それから数日後。デスクでコンサル後のデータを入力していると、シャツを懸命に拭いてくれたパートのおばちゃんがコンサル業務の書類を提出ついでに話しかけてきた。
「徹平君、課長からなにか聞いた?」
「いえ。なにも?」
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