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五年経っても僕の仕事は変わらなかった。だけれど少しだけ立場が変わっていた。
「係長ー。南部地方の水産会社社長さんなんですけど。今期の契約分は断ったはずなのに料金が引き落としされているとクレームが。営業からなにも話を聞いていないから今期については今すぐ契約を打ち切って欲しいって。営業担当者からお電話させるって伝えたんですけど、電話のお姉ちゃんが伝えておいてってそればっかりで堂々巡りなんですけど……」
「うん、わかった」
助けを求めに来た若い女性社員のデスクへ向かい、僕はそこに座る。マイクがついているヘッドセットを頭につけて、目の前の顧客ファイルデータのモニターをざっと眺め、どのようなお客様か把握してからマウスを握る。
深呼吸をしてから『保留ボタン』をクリック。
「お電話代わりました。佐川と申します。お待たせ致しまして申し訳ありませんでした。本日のご用件、弊社とのご契約期間についてですね……」
ただ顧客との相談や、契約についてのコンサルに接客応対が長けていくだけだった。
自宅も変わっていない。結婚当時のまま、同じ家に住んでいる。
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