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インバウンドの着信音もしないデスクが並み居る中、一番端の角が僕専用のコール&データ管理デスク。そこで電話をしたりデータ入力をしたり、コール状況を監視したりしている。そんな端っこでぽつんと一人で夜の業務に勤しんでいると、その静けさと人目の無さを狙ったかのようにしてスーツ姿の彼がこっそりとやってきたのだ。
「そんなこと言われても。仕事とは関係ないし……」
「僕には付きあっている彼女がいるんです」
「そう言ってあげたらいいじゃない。崎坂君に好きな子がいると伝えれば、向こうも諦めてくれるんじゃないかな」
「伝えましたよ。なのに『それなら彼女の写真をみせて』とかしつこくて」
「見せたらいいじゃん。それで納得してくれるんだろう」
「……嫌ですよ。例え見せたとしても、断ったことで何を言われるか怖くて」
それはあるな。と僕も思った。いわゆる『逆恨み』とかいうヤツ?
まだ二十代の瑞々しい爽やかな佇まいから、困惑し続けた憔悴が滲み出でている。大人の世界に疲れ果てた青年の姿。僕だって同情する。
「僕は単なる係長だし、そんなプライベートの恋沙汰にまで口出しなんかできないよ」
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