シーズン4 【 木婚式 】 前編 *しよう、今夜、しよう*

20/21
前へ
/281ページ
次へ
 なのにその晩。娘を寝かしつけてからベッドに潜り込んで来た美佳子を、僕は抱かなかった。 「徹平君、寝ちゃったの」  寝たふりをした。 「もう、そっちから誘ったくせに」  ふてくされる妻の溜め息。暫く僕を恨めしそうに見下ろしている気配を感じながら、僕は必死に寝たふりをした。  妻がベッドから出て行く。もうそれ程頻繁にセックスもしなくなって、本当に久しぶりに僕が誘ったのに……。  僕だって本当は燃え上がったまま美佳子を抱き倒したかった。でも、それをしたら後の何もかもがなし崩しになって、美佳子のことなどどうでもよくなるような気がした。  片思いだった憧れの女性から、『主人』となった僕がいつだって壊せる単なる一人の女。そこに彼女を貶めてしまうような気がして。
/281ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1916人が本棚に入れています
本棚に追加