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なのにその晩。娘を寝かしつけてからベッドに潜り込んで来た美佳子を、僕は抱かなかった。
「徹平君、寝ちゃったの」
寝たふりをした。
「もう、そっちから誘ったくせに」
ふてくされる妻の溜め息。暫く僕を恨めしそうに見下ろしている気配を感じながら、僕は必死に寝たふりをした。
妻がベッドから出て行く。もうそれ程頻繁にセックスもしなくなって、本当に久しぶりに僕が誘ったのに……。
僕だって本当は燃え上がったまま美佳子を抱き倒したかった。でも、それをしたら後の何もかもがなし崩しになって、美佳子のことなどどうでもよくなるような気がした。
片思いだった憧れの女性から、『主人』となった僕がいつだって壊せる単なる一人の女。そこに彼女を貶めてしまうような気がして。
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