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あまりにも子供染みた願望。幼稚過ぎるからこちらでどう応対してもどうにもならず、こちらが譲るまでは事が収まらないような気迫を感じる。
僕はいつかの妻の言葉を思い出していた。『年下と喧嘩したら、年上はどうしたらいいと思う?』。これは年齢のことじゃない『幼稚な人と喧嘩したらどうしたらいいと思う?』だ。ここで僕が噛みついたら彼女は『大人げない』とか『愛ちゃんを贔屓した』とか、今度はそこをポイントに攻めてきそうだ。むしろそれが目的か。僕の揚げ足をとる為に『はやく怒ってよ』と誘い出しているような気もする。
こんな幼稚な罠にはまるわけないだろ!
「インコールに戻って」
いつまでもこちらを睨んでいる落合さんに、僕は平然とした顔で告げる。
愛ちゃんはもう気を取り直してヘッドセットを装着、コールを受けられるようマウスを手にした。
「どうしても。私の言い分なんて、信じてもらえないんですね」
気強い彼女の小さな呟き。席に戻ろうとした僕は立ち止まり、そして愛ちゃんはヘッドセットをしたまま、まだそこにいる落合さんを見上げた。
あの気強い彼女が今にも泣きそうな顔で震えていた。
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