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「落合がこのコンサルに配属されてきた時から、いつかは、もしかしたら……とは思ってはいたんだ。あの性格だし。でも徹平のほうが上手くやってくれると思っていたから」
課長も深い溜め息。それでも『なにがあってもコールを放置するだなんてあってはいけないことだと覚えておくこと』と懇々と説かれ、放免される。
帰る道、車を運転しながら、やっぱり僕はぼうっとしていた。それでも無意識に家に向かっている。美佳子が待っている家に……。
「お帰りなさい。徹平君」
いつもの彼女が出迎えてくれる。華やかなOLだった時のような艶をなくしてしまったけれど、まだそこはかとないしとやかな女の香は漂っている。
そんな美佳子を一目見て、僕は靴も脱がずに妻に抱きついた。
腕の中、固く固く妻を抱く。
「徹平君?」
玄関先でいきなり抱きつかれ、しかも腕を固く結んで離してくれない夫に戸惑っている美佳子。
彼女の身体の柔らかさを実感しながら、妻の耳元の柔らかく甘い匂いを吸い込み、僕は囁く。
「この前は、先に寝ちゃって悪かったよ。ごめん」
「別に……。仕事であれだけ気を遣っているんだもの。疲れていたんでしょう」
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