焔色の空

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 今日もまた、空の色が変わる。  夜の色をしたシャッターが降りてきて、水色を塗り潰していく。  ボクはその瞬間を狙って、シャッターの中に飛び込んだ。  毎日変わらず繰り返されてきたそれを、ずっと観察してきた。そして知った、空のシャッター同士には僅かな隙間があることを。  あまりにも日常の中のこと過ぎて、あまりにも危険で自殺行為過ぎて。誰も気付かず挑戦してこなかったことだ。  シャッターの隙間に入り込んで、収容施設から脱出するのだ。 「あっぶな……」  念のため減量してきたが、それでもギリギリだった。あともう少し体が丸かったらシャッターの間に挟まって身動きが取れなかっただろう。 「よし、登るか……」  体とシャッターはくっついているが、動くことは出来る。  ボクはゆっくりと身をよじりながら、少しずつ上へと登っていく。もしこの隙間が逆にスカスカだったら、今度は下へとずり落ちていただろう。そういう意味では丁度良い狭さだったとも言える。 「ふぅ、んしょっと」  上からの空気の流れを感じる。間違いなく、外からの風だろう。このまま風の発生源まで(さかのぼ)れば外に出られるはず。最悪出来なくとも、収容施設生活とはおさらばだ。 「……はぁ。やっと、終点……」  シャッターの端っこまで到着。  分厚いシャッターの断面に乗って周囲を見渡すと、辺り一面歯車やら何やらでいっぱい。これが収容施設を管理していた外部構造なのだろう。 「ぶっ壊してもいいけど、騒がれるとなぁ」  面倒なことになると脱出出来ないどころか殺されかねないので、歯車に関しては無視しよう。 「さて、と。風はどこから来ているのかな……っと」  ひんやりとした鉄の上を歩く。  暗いが、ほんのりとした明るさがあるおかげで何があるのかはおおよそ分かる。  この明るさの元はダクトだった。  収容施設の天井を這っていたダクト、その網目状の場所から漏れた光のおかげだったのだ。 「ま、いいとこあんじゃん」  良い思い出があまりない収容施設だったが、その一点だけには感謝しておこう。  
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