第1話

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郵便局の中には、翼を生やしたヒトがたくさんいた。全員忙しそうに動き回っており、とてもじゃないが声をかける気が起きてこない。 それでも__。 「お疲れ、皆ー!」 隣のヒトは、平然と声を上げる。 その声に反応したのか、多くのヒトが動きを止めてこちらに目を向ける。そして「お疲れ様です」と、柔らかな笑みを浮かべながら応えた。 隣に立ち尽くしている僕に視線を向けるヒトもいたが、どうやら事情は知っているみたいだった。彼らは優しい表情で、頷いている。 「朝に話したけど、コイツが新人君だ。これからよろしく頼むなー」 「あ、蒼緒(アオ)です。よろしくお願いします」 慌てて頭を下げれば、あちらこちらから「よろしく」や「頑張れよー」と気の良い返事が聞こえる。忙しそうにしていても、ちゃんと応えてくれるなんて……顔が怖いヒトもいるけれど、きっと全員良いヒトなんだろう。 「それじゃあ、アンタの教育係となる先輩だけど……」 また忙しなく動き始めた彼らを眺めながら、隣のヒトはきょろきょろとその人物を探している。こんなにも多くの人がいるのだ、中々見つからないかもしれない。 「あ、彼女なら今配達してますよ」 「えっ」 そんな様子を見かけた一人が、通り過ぎざまに声をかける。驚いて見るが、気にも留めないようにそのまま飛び去ってしまった。 その後ろ姿を見送りながら「あちゃー」と額に手を当てて、苦笑いをしている。 「まあ、そんなに遠くには行ってないはずだ。教育係が戻ってくるまで、ここまでのおさらいをしよう」 「おさらい」 また、か……。何度も繰り返されてきた話を、また聞くのだろうか。 そんな僕の心境が分かっているのか、そのヒトはくすりと笑って指を一本立てる。 「まず、オレは?」 「奏馬(ソウマ)さん」 「正解」と満足そうに頷かれる。 目の前のヒトは、奏馬(ソウマ)さん。ついさっき僕が目覚めた場所からここまで道案内をしてくれた、多分"担当"ってヒト。優しい表情だが、時々よく分からないことを言う。変わっていると思う。 「…………」 変わっているのは、彼の性格だけじゃない。僕や周りのヒトと違って、奏馬(ソウマ)さんの翼は根元が少し黒く染まっている。その上、まるで力強く千切られたような歪な形。 じーっと彼の翼を見ていると、何故だか恥ずかしそうにもじもじし始めた。……教育係という人、早く戻って来ないだろうか。
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