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郵便局の中には、翼を生やしたヒトがたくさんいた。全員忙しそうに動き回っており、とてもじゃないが声をかける気が起きてこない。
それでも__。
「お疲れ、皆ー!」
隣のヒトは、平然と声を上げる。
その声に反応したのか、多くのヒトが動きを止めてこちらに目を向ける。そして「お疲れ様です」と、柔らかな笑みを浮かべながら応えた。
隣に立ち尽くしている僕に視線を向けるヒトもいたが、どうやら事情は知っているみたいだった。彼らは優しい表情で、頷いている。
「朝に話したけど、コイツが新人君だ。これからよろしく頼むなー」
「あ、蒼緒です。よろしくお願いします」
慌てて頭を下げれば、あちらこちらから「よろしく」や「頑張れよー」と気の良い返事が聞こえる。忙しそうにしていても、ちゃんと応えてくれるなんて……顔が怖いヒトもいるけれど、きっと全員良いヒトなんだろう。
「それじゃあ、アンタの教育係となる先輩だけど……」
また忙しなく動き始めた彼らを眺めながら、隣のヒトはきょろきょろとその人物を探している。こんなにも多くの人がいるのだ、中々見つからないかもしれない。
「あ、彼女なら今配達してますよ」
「えっ」
そんな様子を見かけた一人が、通り過ぎざまに声をかける。驚いて見るが、気にも留めないようにそのまま飛び去ってしまった。
その後ろ姿を見送りながら「あちゃー」と額に手を当てて、苦笑いをしている。
「まあ、そんなに遠くには行ってないはずだ。教育係が戻ってくるまで、ここまでのおさらいをしよう」
「おさらい」
また、か……。何度も繰り返されてきた話を、また聞くのだろうか。
そんな僕の心境が分かっているのか、そのヒトはくすりと笑って指を一本立てる。
「まず、オレは?」
「奏馬さん」
「正解」と満足そうに頷かれる。
目の前のヒトは、奏馬さん。ついさっき僕が目覚めた場所からここまで道案内をしてくれた、多分"担当"ってヒト。優しい表情だが、時々よく分からないことを言う。変わっていると思う。
「…………」
変わっているのは、彼の性格だけじゃない。僕や周りのヒトと違って、奏馬さんの翼は根元が少し黒く染まっている。その上、まるで力強く千切られたような歪な形。
じーっと彼の翼を見ていると、何故だか恥ずかしそうにもじもじし始めた。……教育係という人、早く戻って来ないだろうか。
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