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大きなため息を吐き出すと、奏馬さんはまた可笑しそうに笑う。何がそんなに愉快なのか分からないが、顰めっ面をされるよりはマシかと思うことにした。
「では、二つ目だ。アンタはこれから、何をする?」
「手紙を……誰かの想いを、届ける」
また満足気に頷かれる。何度も繰り返してきた話だ、間違えるわけがない。
誰かの想いを届ける。具体的に言えば、生者と死者。現世では決して交わらない両者の想いを、"配達員"と呼ばれる立場の者が届ける。手紙という、形に乗せて。
「三つ目。アンタは"最期、どのように死んだ"?」
また、その話か。まだ会話をしたヒトは奏馬さんと、あの初めに出会ったヒトしかいないが……ヒトの生死について、異常なほどに興味があるようだ。普通ならば、そのあたりはデリケートな問題であまり突っ込んでこないと思うのだが……。
「知らない」
分かっていた答えを、当然のように答える。
繰り返されてきた問答だ、間違えるわけがない。
「オーケー、おさらいはここまで。しかし……アンタはあまり笑わないんだな」
放っておいて欲しい。他人の生死と同じくらい、デリケートな問題だ。首を突っ込まないで欲しい。
嫌そうに顔を顰めれば、また可笑しそうに笑われる。この人はよく笑う。まだ誕生して間もないが、それだけはよく分かる。
ふと、周りを見る。ここのヒト達には、翼がある。僕にも、奏馬さんにも、大勢の配達員にも。大きさや色等の多少の違いがあれど、翼を持っていることに変わりはない。
しかし、あのヒト……誕生してすぐに会ったヒトには翼が無い。同じように生きているのに、何が違うのだろうか。
「さっきのヒトが気になるか?」
瞬間、まるで心を見透かしたように言葉を投げかけてくる奏馬さん。驚いた顔で彼を見るも、今度は無邪気な笑顔ではない。微かな憂いのある、ぎこちない笑顔だ。
珍しい、この人のこんな顔は中々見られないだろう。そんな気持ちでまじまじと見ていると、気まずそうに苦笑いが返される。
まだ時間があるか、確認したかったのだろう。チラリと壁にかけられている時計を見て、彼は僅かに頷く。
「さっきのヒトは、"誕生"を司る神様」
「神様」
随分と盛大な設定だ。
しかし、確かに……誕生を司る"神様"と言われても違和感はない。
「まあ、神様と言っても、尊い存在とかじゃなくて……管理者みたいなものだな」
"誕生"の管理者。
多くの生命が一度に誕生すれば世界に影響を与え、環境のバランスが崩れる。その崩壊がプラスになれば良いが、マイナスになることが容易に想像できる。だからこそ、管理者が必要なんだ。
そう説明をして、「分かったか?」と問うように首を傾げる目の前のヒト。
分かった。そう言っても良いものか迷うが、素直に答えた方が賢明だろう。
こくりと頷くと、彼は安心したように笑った。
誕生……無を有にする管理者がいるならば、有を無にする管理者もいる。まだ僕はあっていないが、今後会うかもしれない。
考え込んでいると、突然肩に手を置かれる。
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