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 昼と夜との間だけ、すっぽりと(しろ)頭巾(ずきん)を被って過ごす奇妙な村があった。旅人はそれに興味を持ち、村を訪れることにした。  辺境の地にあるその村。やっとの思いで旅人はそこに足を踏み入れた。  まだ太陽の日差しが強い昼下がり。これまでに訪れた村と何ら変わらない穏やかな雰囲気が漂っていたが、日が沈みかけると、村人に異変が起こった。噂どおり全員が、頭部全体を覆う白頭巾を被りはじめたのだ。それはまるで、村全体が秘密結社に支配されたような光景だった。 「どうぞ」  見知らぬ男が旅人のそばに近づき、頭巾を手渡してきた。村人が持つものと同じ頭巾を。 「さぁ、もう日が暮れる。宿に帰りなさい」  男はそう忠告すると、足早に去って行った。  (ごう)に入りては郷に従え。それは肝に命じていた。そこに住まう人の忠告には従ったほうがいい。  これまでに多くの国や村を訪れてきた経験から、旅人は素直に宿に戻ることにした。頭巾を被った村人たちの間を縫うようにして。  この村に来てから数日が経った。昼と夜との間だけ頭巾を被り過ごすという噂を確かめられたことで、満足な気もしていた。 「また次の旅に出るか」宿のベッドに寝そべり、ぼんやりと呟く。  しかし、旅人の中には、捨て去れない好奇心があった。昼と夜の間、頭巾を被って村人はどのように生活しているんだろうか?  ひとたび考えはじめると、あれこれ妄想が膨らんだ。旅人はその衝動を抑えきれず、宿の主に悟られないよう、忍び足で宿をあとにした。すっぽりと頭巾を被ったまま。
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