7人が本棚に入れています
本棚に追加
僕の息は弾んで、胸はどきどきしていた。階段から落ちかけたせいだと、そのときは思った。
家に帰ってからもまだ胸のどきどきは収まらない。色々あったせいで、身体が緊張状態にあるのだと自分に言い聞かせ、深く息を吸い、吐く。落ち着け、落ち着け。
自分の部屋に戻り、動悸が収まるのを待ってからベッドの上に寝転がった。バッグの中のノートを見る。手に取って、ぱらぱらとめくってみた。自分の書いた小説というのは、読み直すとなぜこんなに恥ずかしくなるのだろうか。書き直したい箇所ばかりだ。
岡野はこの小説を褒めてくれたが、それはきっと社交辞令だろう。そもそも、岡野のようなタイプに、僕みたいな人間が書いた小説が通じるとは思えない。
ノートをめくり、最後のページまできたときに違和感を感じた。よく目をこらして見る。ノートの一部がにじんでいる。触ってみるとその場所だけ円形にざらついている。水滴がついて、それが乾いたような手触りだ。まさか……これは……。
涙のあと、か。
岡野……ほんとうに……、
僕なんかの、小説で……
僕は、ノートのざらざらを指でそっとなでた。
それから、ベッドの上を二、三度ごろごろしたあと、飛び起きて机へ向かう。
最初のコメントを投稿しよう!