BL小説を置いてきた話

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 僕の息は弾んで、胸はどきどきしていた。階段から落ちかけたせいだと、そのときは思った。  家に帰ってからもまだ胸のどきどきは収まらない。色々あったせいで、身体が緊張状態にあるのだと自分に言い聞かせ、深く息を吸い、吐く。落ち着け、落ち着け。  自分の部屋に戻り、動悸が収まるのを待ってからベッドの上に寝転がった。バッグの中のノートを見る。手に取って、ぱらぱらとめくってみた。自分の書いた小説というのは、読み直すとなぜこんなに恥ずかしくなるのだろうか。書き直したい箇所ばかりだ。  岡野はこの小説を褒めてくれたが、それはきっと社交辞令だろう。そもそも、岡野のようなタイプに、僕みたいな人間が書いた小説が通じるとは思えない。  ノートをめくり、最後のページまできたときに違和感を感じた。よく目をこらして見る。ノートの一部がにじんでいる。触ってみるとその場所だけ円形にざらついている。水滴がついて、それが乾いたような手触りだ。まさか……これは……。  涙のあと、か。  岡野……ほんとうに……、  僕なんかの、小説で……  僕は、ノートのざらざらを指でそっとなでた。  それから、ベッドの上を二、三度ごろごろしたあと、飛び起きて机へ向かう。
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