BL小説を置いてきた話

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 正面玄関を抜け、階段を上って教室へ向かう。薄暗くなった校舎は、異郷感を強め、ますます自分の居場所ではないように感じられる。早くノートを見つけて帰ろう、とあらためて思った。  自分の教室の前まで来ると、教室後方のドアが開いていた。誰かいるのだろうか……。  確認しようと、そっと中を覗く。  教室の窓は一面、オレンジ色の光に照らされていて、そこに一点だけ、地面からすっと伸びたように、黒い影が浮かんでいた。不思議と、その影を見ても驚きはしなかった。  照らす光で輪郭がぼやけ、影が誰なのかは判然としないが、よく見ると、影が立っているのは僕の机の前のようだ。  そのとき、影が振り向いたので、僕は慌ててドアから身を隠した。  危ない、見つかるとこだった……よく考えたら見つかっても堂々としていれば問題はなかった気がするが、一度隠れてしまったことで、もう出ていくことはできなくなってしまった。  影がまた背を向けようと横を向いたとき、手にノートを持っているのが見えた。 「ふぉあっ‼」  変な声が出た。  あれはまさに、僕のノートではないのか。
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