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謎解きと謎掛け(2)
今日は特別みたいだった私の空想も、ここまでみたいだった。
樹の守り神たち
みかえ つばき
だけどはっきりと読めた。表紙の文字まで見えたのは初めてだった。なぜなのか私の胸はドキドキしていた。
気になっていた作家みかえつばき。どうもこの部屋には、みかえつばき作の本が何冊もあった。たぶん有名な作家なんだ。
それなら、樹の守り神たちって本も、私の空想の中だけじゃなくて、本当にあるのかも……と思ったけど、そんな題の本は本棚にはなかった。やっぱり私の空想の中だけで、実在しない本なんだ……。私は部屋をひと回りして扉まで戻る。
「あっ……そっか」
棗ちゃんに渡す予定の姉妹の物語は、まだ渡せていなかった。
忘れないように出入り口の近くに置いたことまで忘れちゃうんだから、やっぱり私ってダメジョだわ。ベッドまで持っていこ。
私の枕元のライトはキャンドルみたいな色のランプの形をしてる。私が暗い部屋で眠れないって言って買ってもらった、小さい頃から使ってる必需品。
グロッサには私がついているから。
ジュジュは優しいのね。私はそんなジュジュが大切よ。
村の人が変なことを言っていたわ。
それは、はやりの病に侵されたのかも知れないわね。
ときにはそれが本当のことのように思う。
惑わされてはだめよ。
そうね、気をつけるわ。
私はベッドで本を読みながら寝落ちすることが増えた。
そしてその晩の夢もなんだか摩訶不思議な印象だった。
それは目覚めても、普通どおりに家を出て登校しても、頭のどこかにあった。
「あー、2組の御神本さん、ちょっとちょっと」
ふいに生徒玄関で私を呼び止めたのは、若い教育実習生の女の先生だった。理科の先生、えっと……名前わかんないや。
「ごめん、これ1限の理科のプリント、教壇に置いといてくれるかな」
「わかりました。あの、私の名前、知ってるんですね」
少しクセ毛のショートカットにノーメイクの超キレイな肌をしたその人は、黒縁メガネをクイッとさせて微笑む。
「ふふふ。マナカミガドミカモトムラサメのま行は、好きなの。本の上に乗せていいかな?」
「はい、どうぞ」
「おお、みかえつばき!かな?」
「えっ!!知ってるんですか?!」
私の興奮は1秒もかからず頂点に達した。
「いや、知らないと思う」
まさかのしったか!!
「でも……読んだことあるような気がする、かな」
少し天然っぽいけど、悪い人じゃないみたい……。本の上に乗せられた1限のプリントの隅には、“教育実習 志摩くるみ”と書かれていた。
「梓ちゃん、冬でも素足を貫き通すんだね」
私はどこか寒そうにしてたのだろうか……。やっと棗ちゃんにご依頼の本を渡せた私は、机の下の質問者の足をのぞく。
幸いにも私たちの席は教室の窓側。窓側にはスチーム暖房のラジエーターがあるからいつもポカポカ。
「でも今日は学校までの道のりが険しすなのでした……トホホ」
「梓ちゃんもタイツ履いたらいいのに」
棗ちゃんは素足なら透き通るような真っ白な肌を、冬は80デニールくらいの黒いタイツに包んでしまっている。
「いいよね、棗ちゃんは足長いからタイツが似合うのなんのって」
「もう、梓ちゃんだって足キレイでしょ」
「今は寒くないもーん」
私は窓際の暖房を前から後ろまで見渡した。線路は続くよ暖房よ。
でもやっぱり気になってしまうことは無意識に気になるわけで、一番後ろの席は何度見ても森永君だった。
あの部屋の、みかえつばきの本の中に、村人がキツネかタヌキに騙されてウソとマコトの区別がつかなくなってしまう話があって、村人がウソの謎掛けに、ありもしないマコトの謎解きをずっとさせられる。そんな呪いが自分にも掛けられてたらなんて、それくらいこの状況が女子中学生には難題すぎ。
だからといって、もう深く考えないようにしようって私たちは決めていた。
「棗ちゃん、理科の教育実習生の女先生知ってる?」
「うん、志摩ちゃんでしょ」
「友達みたいに言ってるじゃん」
「地層の研究とか今でもやってる珍しい教育実習生だよね」
「棗ちゃん、よく知ってるね」
「私も将来の夢を叶えられたらなあって……」
「棗ちゃん、学校の先生になりたいとか?!」
「えっ?!」
「似合うかもー、いいかもー、正夢かもー」
「えー?なに?夢って?」
「私のゆうべの夢、不思議でねー、私の担任の先生が棗ちゃんになっててね、なんかよかったなあ……」
「えっ……」
そう言われて照れたような、驚いたような、彼女の表情が印象深かった。
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