シンクロニシティ(5)

1/1

15人が本棚に入れています
本棚に追加
/58ページ

シンクロニシティ(5)

 ノートは3冊だった。  3冊ともかなり使い込まれた雰囲気で各々(おのおの)色違いの、いわゆる大学ノートだった。 「え、これって……」  これで何度目かなって思う。棗ちゃんのすることには驚かされてばっかりだよ。  そのノートの表紙には、それぞれ手書きでこう書かれてたのだから。 【ジュジュとグロッサ(1) 御神本椿】 【ジュジュとグロッサ(2) 御神本椿】 【ジュジュとグロッサ(3) 御神本椿】 「なにこれ……ウソでしょ」  そのノートたちは、私が棗ちゃんに貸していた1冊の【ジュジュとグロッサ】と同じタイトルが1~3という具合に分けられて、手書きで表紙に書かれた3冊のノートだった。 「しかも……御神話(みかえ)じゃない。御神本(みかもと)だよ……一体どうなってんの?」  もうこうなってしまった以上、ノートの中身を見ないわけにはいかない。私はまだ少し動きにくい指でノートを開いた。  とある小さな国の小さな村に、ジュジュとグロッサというそれは仲良しの姉妹がおりました。  ノートの1ページ目から手書きの文字がビッシリ書き詰められてる。  書き出しは書籍版と同じ。それに2冊目と3冊目のノートにも見覚えのある文章がある……。  つまりこれは……おばあちゃんの作品の原稿なの?!  「え……?」  でもちょっと待ってよ……こんなものどうして棗ちゃんが持ってるのよ……。  棗ちゃんの家族か親戚の誰かが、おばあちゃんの大ファンだったとか、もしくは知人か友人だったとか?  いやいや……もしそうだとしても、なぜ棗ちゃんがノートの事を私に言わずに書籍版の方をわざわざ私から借りるわけ?  何が何だかさっぱり分かんないよ、棗ちゃん。私どうすればいいの?  私は荷物の送り状伝票に書かれた、見角棗という文字に(うった)えかける。それはいつものように綺麗な字で、丁寧でバランスのいい楷書だった。郵便番号も住所も名前も。おまけに“こわれもの”に丸印が……。  品名(内容品)  チケット 「なに?!チケット?!どゆこと?!」  ヤバイよ、マジで混乱するじゃん。  本とノートがチケット?  招待状?  入場券?  通行券?  いや……乗車券だ、これ。 『このメッセージカードは私からのパスポートだよ』  パスポートとチケット……棗ちゃん、幾ら何でもやりすぎだよビックリするよ。でも意味があるんだよね、今じゃなきゃならなかったんだよね。  これは棗ちゃんから私への最後の贈り物なんだよね。 「あ、ヤバイ!!」  私は(あわ)て過ぎて【大英博物館解説大図鑑第2巻】を、貸し出し手続きせずに持ち帰ってしまった。  仕方なく戻ることにしたけど、また家に戻った時にはお月様が出かかってた。  私は、おばあちゃんの部屋でなら何か降臨(こうりん)する気がした。だってここはパワースポットっていうか、臨界的(りんかいてき)っていうか、とにかく不思議な力がある、と思うから……。  まず図鑑、重かった。  そしてメッセージカードは、パスポート。  書籍版のジュジュとグロッサ。  そのジュジュとグロッサのノートは、チケット。  アイテムは揃った……のに。  使い方……知らないんだよね。 「うわあああああああん!!」  思わず叫んだら、ママがビックリして部屋を(のぞ)きに来た。 「もう、梓ちゃんはゴリラか何かなの?!」 「だって……」 「それ、どこかの儀式(ぎしき)か何かなの?」  ママは床に広げられたアイテムを見てコメントする。 「違うし!!パスポートとチケットだし!!」 「何よソレ……早く出発すればいいじゃない、あっははは」 「もう、うるさい!うるさい!うるさい!」  ママのせいで気が散った。  冷静に考えよう。棗ちゃんは謎解きが上手だった。パスポートとチケットが謎掛けだとしたら……。  図鑑とカードがパスポート、本とノートがチケット?  大ファラオの帝国 + ジュジュとグロッサ?  意味不明すぎて情けないよ……。 『(まど)わされるな』  空想世界?いや違う……。  私は顔の位置はそのままに、目だけを動かして視界を確認する。空気は変わってない。  あの声……今までも聞いたことがある声だった。ずっとある意味で不気味すぎて、関わらないでいた。  まあ、優しい声ではあるんだけど、きっと私の意識の中の空耳的(そらみみてき)なヤツ……その程度に片づけてた。  だって私は自分でも“空想に入り込み過ぎるとロクなことがない”って分かってる。これまでだって嫌なモノにも何度も遭遇(そうぐう)したし、空想も意外に危険だってもう気付いてるし……。  だから、空耳的な現象には耳を貸さないことにしたの、っていうかさ。 「そもそも、なんにも惑わされてないし!!」 『本当なのか?』
/58ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加