15人が本棚に入れています
本棚に追加
/58ページ
シンクロニシティ(5)
ノートは3冊だった。
3冊ともかなり使い込まれた雰囲気で各々色違いの、いわゆる大学ノートだった。
「え、これって……」
これで何度目かなって思う。棗ちゃんのすることには驚かされてばっかりだよ。
そのノートの表紙には、それぞれ手書きでこう書かれてたのだから。
【ジュジュとグロッサ(1) 御神本椿】
【ジュジュとグロッサ(2) 御神本椿】
【ジュジュとグロッサ(3) 御神本椿】
「なにこれ……ウソでしょ」
そのノートたちは、私が棗ちゃんに貸していた1冊の【ジュジュとグロッサ】と同じタイトルが1~3という具合に分けられて、手書きで表紙に書かれた3冊のノートだった。
「しかも……御神話じゃない。御神本だよ……一体どうなってんの?」
もうこうなってしまった以上、ノートの中身を見ないわけにはいかない。私はまだ少し動きにくい指でノートを開いた。
とある小さな国の小さな村に、ジュジュとグロッサというそれは仲良しの姉妹がおりました。
ノートの1ページ目から手書きの文字がビッシリ書き詰められてる。
書き出しは書籍版と同じ。それに2冊目と3冊目のノートにも見覚えのある文章がある……。
つまりこれは……おばあちゃんの作品の原稿なの?!
「え……?」
でもちょっと待ってよ……こんなものどうして棗ちゃんが持ってるのよ……。
棗ちゃんの家族か親戚の誰かが、おばあちゃんの大ファンだったとか、もしくは知人か友人だったとか?
いやいや……もしそうだとしても、なぜ棗ちゃんがノートの事を私に言わずに書籍版の方をわざわざ私から借りるわけ?
何が何だかさっぱり分かんないよ、棗ちゃん。私どうすればいいの?
私は荷物の送り状伝票に書かれた、見角棗という文字に訴えかける。それはいつものように綺麗な字で、丁寧でバランスのいい楷書だった。郵便番号も住所も名前も。おまけに“こわれもの”に丸印が……。
品名(内容品)
チケット
「なに?!チケット?!どゆこと?!」
ヤバイよ、マジで混乱するじゃん。
本とノートがチケット?
招待状?
入場券?
通行券?
いや……乗車券だ、これ。
『このメッセージカードは私からのパスポートだよ』
パスポートとチケット……棗ちゃん、幾ら何でもやりすぎだよビックリするよ。でも意味があるんだよね、今じゃなきゃならなかったんだよね。
これは棗ちゃんから私への最後の贈り物なんだよね。
「あ、ヤバイ!!」
私は慌て過ぎて【大英博物館解説大図鑑第2巻】を、貸し出し手続きせずに持ち帰ってしまった。
仕方なく戻ることにしたけど、また家に戻った時にはお月様が出かかってた。
私は、おばあちゃんの部屋でなら何か降臨する気がした。だってここはパワースポットっていうか、臨界的っていうか、とにかく不思議な力がある、と思うから……。
まず図鑑、重かった。
そしてメッセージカードは、パスポート。
書籍版のジュジュとグロッサ。
そのジュジュとグロッサのノートは、チケット。
アイテムは揃った……のに。
使い方……知らないんだよね。
「うわあああああああん!!」
思わず叫んだら、ママがビックリして部屋を覘きに来た。
「もう、梓ちゃんはゴリラか何かなの?!」
「だって……」
「それ、どこかの儀式か何かなの?」
ママは床に広げられたアイテムを見てコメントする。
「違うし!!パスポートとチケットだし!!」
「何よソレ……早く出発すればいいじゃない、あっははは」
「もう、うるさい!うるさい!うるさい!」
ママのせいで気が散った。
冷静に考えよう。棗ちゃんは謎解きが上手だった。パスポートとチケットが謎掛けだとしたら……。
図鑑とカードがパスポート、本とノートがチケット?
大ファラオの帝国 + ジュジュとグロッサ?
意味不明すぎて情けないよ……。
『惑わされるな』
空想世界?いや違う……。
私は顔の位置はそのままに、目だけを動かして視界を確認する。空気は変わってない。
あの声……今までも聞いたことがある声だった。ずっとある意味で不気味すぎて、関わらないでいた。
まあ、優しい声ではあるんだけど、きっと私の意識の中の空耳的なヤツ……その程度に片づけてた。
だって私は自分でも“空想に入り込み過ぎるとロクなことがない”って分かってる。これまでだって嫌なモノにも何度も遭遇したし、空想も意外に危険だってもう気付いてるし……。
だから、空耳的な現象には耳を貸さないことにしたの、っていうかさ。
「そもそも、なんにも惑わされてないし!!」
『本当なのか?』
最初のコメントを投稿しよう!