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シンクロニシティ(7)
ビックリも、ここまで恐怖がコンボすると強烈なんだって実感した私。
飛び上がって、その場に座り込んだまま立てなくなっちゃった。つまり腰を抜かすってこういうこと?後ろの本棚倒さなくて良かったよ、部屋で巨大ドミノやるとこだったよ。
「もう、ホントやめてよ……」
私は本棚の中段あたりのソレを睨んだ。
ウサギの耳にテングの鼻かと思ってたら、人間の体にオオカミの頭を持つらしいエジプトの守護神だとか…。
「でも民芸品だよね」
『レプリカではない』
落ち着こう、私。
「でも置物だよね」
『本来の目的はそうではない』
もう受け入れよう、梓。
「なんで喋ってんの?」
『そうだな……召喚されたからだろう』
もう諦めよう、梓。
「してないから!」
なかったことにしよう、できることなら……。そう思って当然でしょ?だって人形やぬいぐるみが喋ったらそれは精神異常じゃん。ましてや相手が神仏だったらそれは単純に宗教上の理由でしょうし、神像が目も口も動かさずに会話が成立してる時点で思い込み確定!!
『なぜそう言える?』
「あなたのソレに付き合うつもりは、私ないから!」
『本当にそれでいいのか?』
「いいじゃん!」
『パスポートだぞ?』
「喋る必要ないでしょ?通行手形なんでしょ?」
『使い方、知っているのだな?』
「また聞くからいいよ」
『喋る必要がないとなると、それは難しいのでは?』
「なんて意地悪なの?!」
『私の重要性を理解させるためだ』
「ど、どういうことよ」
『物事はそれが起こる事で意味を成している』
「は?」
『私が再び魂を得た事に何かしらの意味があるという理屈だ』
「再び?過去にも喋ってたってこと?」
『当たり前だろう』
「いつ?」
『それは知らぬ』
「何よソレ」
『君らのシリウス単位を私は知らない』
「ぜんっぜん意味不明なんですけど!」
『それは理解しようとせず誤解するからだ』
「だって民芸品が喋るなんて、すんなり受け入れられる人間いる?」
『いる』
「誰よ」
『ツバキだ』
その瞬間、本棚の本たちがパン!パン!パン!と花火みたいに飛び出しては、空中で弾けて光の粒になった。
部屋全体に降り注ぐ光の粒がキラキラ輝いて消えるまでの間だけ、そこに現れた鏡の世界に私が映し出される。
この部屋に私がいる。
本棚がある。
それから――
「お、ばあちゃん?」
私の知ってるおばあちゃんより、ずっと若いおばあちゃんが私と一緒に鏡に映ってる。本棚から本を取り出して、戻して、また取り出して……。
「あ、この流れって……」
やっと分かった。今まで私が見てきた空想の中のあの本たちの動きは、本が勝手に遊んでたんじゃなくて、おばあちゃんが本棚を整理してた場面だったんだ。無意識に私は、おばあちゃんが見えないスクリーンを作ってしまってた。
「それだけだったんだ……あっ」
光の鏡は消えた。
「……………」
『どうした?』
斜め後ろへ向き直した私にジッと見られた守護神は、思ったとおり不思議そうだった。私が静かになった理由なんて、この守護神には興味ないんだろうな。
「わかったよ」
『何が見えたのだ?』
「何だっていいでしょ」
『興味がある』
「誤解は解けたと思うよ」
『それならばいいだろう』
「おばあちゃんを知ってるんだね」
『その通りだ』
「昔は、おばあちゃんと喋ってた?」
『もちろんだ』
「そっか……」
『それがなにか?』
「ところでどうして喋り出したわけ?」
『以前から微かに聞こえていたのではないか?』
「そうだね。じゃあコレは何がきっかけ?」
『チケットだろう』
「ん?本とノート?」
『ツバキの身代わりが、そのノートなのだろう。その者のそのユルシがないと私は何もできない』
「パスポートとチケットが組み合わされてスイッチが入ったの?」
『およそ、そのようだな』
「おばあちゃんが、あなたを作ったの?それに棗ちゃんはあなたを知ってるの?」
『そんなこと、私が知るわけないだろう』
「そうだよね……意味があるってことだよね」
『先ほどそう言った』
「おばあちゃんもそう言ってた?」
『ツバキはその理論を定義づけていた』
「どんな風に?」
『その現象は、シンクロニシティだと』
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