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都市伝説(2)
それらは、どれも同じ顔をして立っていた。
しかも人間の姿なんてしてないように私には見える。
よくよく見ると、どの面もお揃いのウサギの耳にテングの鼻をつけた仮面を被った悪の偶像になってた。
ゆらゆら揺れて迫って来る。
奇怪な声を発して迫って来る。
「気持ち悪いから消えてよ、お願いだから」
「消えてよ」
「消えて」
「消えろ」
私は、その気味の悪い仮面を剥ぎ取りたくて、掴み掛かっていった。
どうしても許せなかった。
私は私の大切な幸せを壊された怒りの衝動の淵の底に、素直に身を投じてやった。
一体どんな権利があって、私のパーソナルスペースに汚らしい土足でズカズカと侵入できるのか、1ミリも理解できなかった。
校内でならそんな罪が許されるのが中学なのなら、中学校ではいったい社会性の何を教わるんだろう。
正しく常識的に成長した大人は、こんな風にどんな被害を被っても反撃しないのかな。反撃したらこっちも罪になるから?
じゃあ被害で傷付いた人の心はどうなるの?
そんな嘘ばかりの綺麗に象られた社会的な社交性なら私には不必要だよ。
「梓ちゃん!!」
私は棗ちゃんの叫び声で我に返った。
もうそこには仮面の集団なんていなかった。
さっき私に嫌がらせの言葉を吐いた男子は、私の足元でなぜか気を失っている。
私の手の指の間には、たぶんこの男子の髪の毛が何本も挟まっていた。
「失礼します」
私は両親と一緒に職員室を出る。
両親が学校に呼び出されるのは、初めてじゃない。
でも、今回のことでパパもママも私を叱らなかった。
ただ、暴れた理由も聞かれなかった。
私の居場所は、あの部屋だけだった――。
ジュジュ、私は大人になったら人々を助けるわ。
グロッサ、じゃあ私はあなたを助けるわ。
ジュジュはお姉さんなのだから、妹を助けるのは当然でしょう。
でもグロッサは私よりも勉強ができるから、たくさんの人を助けられるわね。
ジュジュ、でもね勉強ができることと、人を助けられることは関係ないわ。
グロッサのように誰かを助けたいと思う人は、その方法を知りたいと思っているに違いないわ。
どんな方法なのかしら。
きっと簡単な方法よ。
雨を降らせることかしら。
日照りを呼ぶことかも知れないわ。
知りえなかったとき困るわね。
ジュジュが教えてくれるじゃない。
グロッサが問いかけるからじゃない。
なぜかしら。
なぜなのでしょう。
仲が良いからでしょうね。
私たちは本当に仲の良い姉妹だと思うわ。
やっと見つけた。棗ちゃんがずっと気になってた本を。
私も気になって読んでみたちょうど真ん中あたりのページの一節は、姉妹の会話だった。
ジュジュがお姉さんで、グロッサが妹。
読んでいるだけで和む。
『梓ちゃんが私のお姉ちゃんでしょ』
私がお姉ちゃんで、棗ちゃんが妹かあ……。カワイイ妹だなあ。
『梓ちゃん!!』
また棗ちゃんを困らせて迷惑を掛けちゃった……。必死に私を止めて、呼び起こしてくれた。
『いいよ、大丈夫、梓ちゃん落ち着いた?』
大切な人なのに。
世界で一番大切な人なのに。
もっと私があなたを助けてあげたいのに。
『君も遭ったんじゃないの?地球外生命体に』
最悪だわ。
あった?
若林が?
地球外生命体って何?宇宙人ってこと?
あったって何?
見たんじゃなくて、あったって何?
しかもなぜ噂になるの?
自分でそんなこと言うの?
変人扱いされるに決まってるのに?自慢げに言うの?僕はUFOを呼べるんだって?ヤバイでしょ。
『見えるんだよね?御神本さんは……』
見えないし。
空想なら誰だって思い浮かべられるでしょ。
空想なら。
空想って何?
私に見える空想世界って何?
若林とはきっと違う。
私は見たり遭ったりできない。
私は一晩中、ぐちゃぐちゃになった感情を整理して元通りにしようとしても、どうやったって理解不能な他人の言動や行動に修復中の感情をまた乱されて結局は寝不足になっただけだった。
もうどうでもよくなった。玄関を開けるまでは……。
「君に相談したいことがあるんだけど」
これって完全にストーカーだわ。
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