夢のあとには

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夢のあとには 「人は死んだら、どこへいくの。」 かつて、何度となく貴方に問うては答えを得られぬまま、宙ぶらりんに保留されてる長年の私の疑問。 しばらく振りに見た夢の中の貴方に、もう一度聞いてみる。 「…どこにいるの?」 相変わらず真意の読めない澄ました笑顔で見つめ返すばかりで、一向に真摯に向き合う気などはなさそうだ。 かつての恋人は、当時以上に私を翻弄する。 もう、何年も。 そもそも、こんな気持ちになるのは私自身が貴方に大きな未練と大きな後悔があるからで、夢枕に立つ貴方に問うたところでその疑問が解決されないことも本当は理解している。 それでも尚、夢であっても貴方が私に会いに来てくれていると、気にかけてくれていると、そこには愛があるんだと、只…そう思いたいだけなのかもしれない。 そう、答えなど出さずに、ひたすらにこの夢にしがみ付いていたい自分を無条件に肯定したいのだ。 独りよがりで、自分勝手で、わが儘だ。 でも、そう思いたいくらい惨めで、切なくて、呆気ない終わり方だった。 だから、今日も終わらない問答を繰り返す。 そうやって、東の空が白み始める頃まで浅い夢の中で私と戯れていってよ。 余裕の笑みを浮かべて、時間が来たら何時もみたいに 「じゃあなぁ。」 って言って、貴方の身体は霧が晴れるみたいに霧散してあの時みたいに居なくなる。 悲しいけど、そう悪くない夢。 その筈だったのに、今日の貴方は違ってた。 変わらない笑顔のまま、唇が動く。 「悪かったな。…ゴメン。」 久しぶりに聞く声。 噂によると、人は亡くなった人の声音から忘れていくらしい。 けど、私は彼の声を忘れてはいない。 ちゃんと彼の声を正確に聞き分けられる。 今、この瞬間に雑踏へ放り込まれたって貴方が呼べば直ぐ分かる。 奢りでもなんでもない。 紛れも無い、ただの事実だ。 だから、本当は彼は死んでなんかいないんじゃないかって思ったりもする。 あの時、まだまだ子供に毛が生えたような私がたった独りで眺めた、長い煙突から早春の青空に立ち昇る一筋の煙は幻だったんじゃないか…と。 回想の内に彼から頬笑みが消えた。 大真面目な顔して 「ホントにゴメン。…もう、楽になれ。」 予想もしてない言葉と表情。 完全に期待を裏切られた私は、夢とうつつの狭間で狼狽えた。 うっすらと覚めていく意識を一心不乱に取り戻そうと、固く目蓋を閉じて消えゆく彼の欠片に手を伸ばし必死で搔き集めて胸に抱きしめてみた。 でも、腕の中は空っぽで虚しさと途方もない不安で息も出来ない。 深い慟哭で、呼吸がどんどん、どんどん浅くなって、苦しくて、悲しくて、意識は再び深い闇に落ちていった。
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