菊花開(きくのはなひらく)

1/1

2人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ

菊花開(きくのはなひらく)

 連休明けの朝。いつもよりちょっとだけ早く学校に来て、ちょっとだけドキドキしながら机の中を見た。チョコは無くなっていて、新しい付箋が貼ってあった。 『はつみさん  チョコ、ありがとうございます。私はマッシュルームよりはバンブー派なので、うれしかったです。食べたら元気が出ました。  でも、このようなお気づかいはしていただかなくてだいじょうぶですよ。  ともあれ、ありがとうございました。   ゆい』  付箋を剥がして、手帳に貼る。そして鞄から付箋の塊を出し、ペンを握った。         *** 「あ、また」 「何? ゆいさん?」 「…なんでもない」  授業開始、1分前。仕事が長引いたから、必死に走ってギリギリセーフ。弾む息で机の中を確認すると、そこには新しい付箋があった。 『ゆいさん  私も、バンブー派です! マッシュルームと迷ったので、気に入っていただけたならよかったです。安いものなのでお気になさらず。元気が出てよかったです^^。お腹が空いていると、勉強に身が入らなかったりしますよね。   はつみ』  確かに、と思う。1限目の後、給食を食べるまで、結構つらい。でも、食べた後は睡魔との戦いで、これまた結構つらい。勉強したい一心でがんばるけれど、でも、たまにこの戦いに負けてしまうこともある―。 『はつみさん  そうですね、仕事が長びいてぎりぎりに学校に来たときは、空腹がつらいです。でも、お腹がいっぱいだと、こんどは眠気が。困ったものです。   ゆい』  昼間の学校に通える「はつみ」さんは、仕事がハードで授業中眠いとか、ないんだろうな、と思う。もしも自分も昼間の生徒だったら、この教室で一緒におしゃべりしたりして過ごしただろうか。 「いや、それはないな」 「あ? なにが?」  クラスメイトのりょうさんが、独り言を聞きつけて尋ねてきた。 「いや、自分がもし、昼間の生徒だったらって考えてた」 「ああ、それは無いね。…昼間の人、きっと苦労知らず。夜の生徒を、貧乏人とかバカにしてるかもしれない」 「…そんなことは無いと思うけど」 「なんでわかるかな?」 「なんとなく?」  ちょっと沈黙。それから、うん、と、りょうさんが頷いた。 「そうだね、決めつけ、よくないね。こういう立場の人はこう、って、ひとまとめにしちゃいけないね」  やりがちだけど、ちょっとおどけて肩を竦める。それも確かにそう、と思った。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加