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教えられた部屋番号を入力しインターフォンを押す。通話が繋がった途端『今開ける。』と言われ、オートロックの扉が開く。エレベーターで5階まで上がって505まで行きドアの隣のインターフォンを押す。
───なんで来ちゃったんだろ・・・まさか明日先輩の家に来る日が来るなんて。
「入って。」
「お邪魔します・・・!?」
ドアを開けてくれた先輩の姿に部屋を間違えたかと思った。牛乳瓶の底のような分厚いレンズの眼鏡に半纏姿、下のシャツとパンツ・・・というよりズボンも使い込んだもの。まるで昔の浪人生のようだ。大いに戸惑いつつリピングに入ると思わず『え。』という言葉が漏れた。
「ここ、本当に明日先輩の家ですか?」
「そうだよ。なんで他人の家に案内するんだよ?」
「一人暮らしですよね?」
「うん。」
そう返した先輩の後ろには田舎のおばあちゃんの家みたいなほっこり空間が広がっていた。
畳にこたつ、趣のある箪笥、ところどころにある手作りっぽいレース編みの敷物やカバー類。
───浪人生じゃなくておじいちゃんの方だったか・・・。
先輩はチャラ男なのだから、当然部屋もチャラいと思っていた。薄暗くてキャンドルがあったりして、ソファには黒のベロア生地のカバー、クッションには赤いレザーのカバー、テーブルはガラスで、バスローブを着てて、みたいな感じをイメージしていた。
「まさかこれ先輩が編んだとかじゃないですよね?」
複雑な模様を描いているレース編みを見ながら言う。
「どれ?あーそれはばあちゃん作。俺はそこまでのは編めない。」
「『そこまでのは』!?それってつまり先輩が編んだのもあるってことですか!?」
そう言うと先輩は『しまった!』という表情になり頬を赤らめた。
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