2日目

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2日目

 食堂は鋭角の屋根の下にある。壁はすべてライム・グリーンに塗られている。あなたは鉛色の柔らかい煮凝りに、薄いアルミのスプーンを差し込んでいる。あなたはその料理が好きだった。クリムストリをひとつください。あなたがそう言うのを、食堂の職員はあなたが口をひらく前から、知っていた。クリムストはゴルガナチャとホプラリスをとろ火で煮続けてできる。口に含むと、舌が滑らかなムースに抱きつかれるようで、あなたはたまらない。あなたの眼の前のライム・グリーンの壁には、一点の曇りもなかった。その清潔さは、あの完璧に丸い透明の玉のすがすがしさによく似ていた。あなたの唇の端はすっかりくつろいでいた。あなたはテーブルの淵にかけていた指を滑らせた。灰色のテーブルは少しもざらつかず、あなたの腕はすいと優雅に伸びていった。世界は心地よく、舌触りも指触りもなめらかだった。午後1時。ノモノパルボの濃度が最も高くなる時間帯だった。 「今日もクリムストリですか」 「ええ、ええ」  隣の生き物が、あなたの手元にある少し崩れたクリムストリをまなざした。生き物はやはり縦に長く白っぽい体躯をしていた。生き物の肩のあたりで、あの黒い無数の細い管が静かに揺れた。それが髪の毛と呼称される組織であることを、あなたはもう思い出していた。毎日、あなたは思い出していた。それはいつも、ライム・グリーンの壁の鮮やかさに心をくすぐられることと同時だった。 「その髪の毛、綺麗ですねえ」  あなたは生き物の不気味極まりない器官の名を思い出して、安心のあまり微笑みを湛え、生き物のほうに首を傾げた。髪の毛はとても綺麗とは思えなかったが、少なくとも、朝、工場の肉色の壁もろとも視界に映るあの非常に細い糸状の器官よりはまともなものに感じられた。 「いつもありがとうございます」  生き物はごく薄い微笑を浮かべたが、それだけだった。微笑は冷たくすら感じられ、あなたはなんだかやはり不快に思い、スプーンを力強くクリムストリに差し入れた。そうすると、カツン、という陶器の澄んだ音が一つ、鋭角の屋根に抜けていくのだった。あなたの血脈の末端では、ノモノパルビースが受容体に届き、細かく、細かく分裂してゆく。
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