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「画材はエゴン爺さんの店で買え。今から行くから、道を憶えろ。……俺は今年、実科学校を卒業する。そのあとはここから勤めに出るから、小遣いくらいやれると思う。父さんの蓄えもあるしな。おまえも学校に通うべきだけど、今は暇だろ。好きなだけ描いて練習しな。怠けてると、俺がいよいよ空を嫌いになって、窓を塞ぐかもしれないぞ」
行くぞと一言、従兄は足早に部屋を出て行った。離れていく足音を、慌てて追いかける。
廊下の上着掛けの前に並んで支度をしながら、オリエンは悩んだ。上着が要るだろうか。頭から足先まで、人間ストーブになれそうなほどに温まっている。かといって着ないと怒られそうなので、結局は羽織ることにした。
隣で待つリテラートは、首を竦めていた。玄関も出ないうちから寒がっているのに、空を見るためには外まで出ていくなんて。早く窓を開けられるようにしてあげないと。オリエンは決意を新たにする。
そして自分がもらった温もりと感謝を伝えるべく、未だに爪痕の消えない、従兄の冷え切った手と、手を繋いだ。
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