グリザイユの狩り場

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 胸の中で、戸惑いと嬉しさが()み分けに失敗して混ざり合い、漠然とした不安に変わった。従兄が視線を逸らさないのは、会話してもいいというサイン? 謎めいた言葉は、伯父と同じく、質問という形で話しかけられるようにとの配慮? それはさすがに期待のしすぎか。  とはいえ質問しか思い浮かばない。フクロウが好きとなぜ気づいたかは、純粋に知りたい。けれどそれを尋ねたら――むしろ何を訊いても――高確率で「別に」の一言に終わらせられる。今までの数少ない会話のパターンからでも、それは推測できた。  だから、と捻り出したのは、絵に結び付ける作戦だった。出不精だという彼が、町の寄宿舎から帰ってまで取り組む趣味のことなら、話が続きそうだ。   「その絵に描いてあるのも、夕方の空?」 「ああ」 「えーと……どうして灰色なの?」    最初の問いかけに対する答えがどうであれ、灰色で描く理由を訊くとは決めていた。しかし正直、従兄の肯定は予想外だった。夕方の空といえば、ほかのどの時間にも増して複雑な色をしていなかっただろうか。それともやはり、夢の記憶だったのか。赤に黄に、昼の青と宵の濃紺、神秘的な紫も棚引く、灰一色とはほど遠い、あの空は。   「昼の光は何色だ」  質問に質問で返されて、オリエンは面食らった。久しく見ていない太陽の眩しさを求めて、記憶を探る。目の奥がきゅっとする感覚。強い光の塊。   「……白、かな」 「夜の闇は」 「黒」 「両方混ぜると」 「灰色」 「だから灰色で描いてる」    そんな無茶なと思いつつ、淡々とした口調に流される形で、オリエンは一応納得した。見えるとおりの夕焼け空ではなく、昼と夜が共存する空という解釈を描いたと言いたい、のだと思う。
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