グリザイユの狩り場

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「父さんから来る手紙にな。職業柄か、いつも何か教訓めいたことが書かれてて……最後にもらったときは、あれの話だった」  乾いた筆の先が、部屋の片隅の彫像を指し示す。 「あの像は知恵の女神。フクロウはその使い。これも知恵の象徴らしい。手紙には、『知恵の女神のフクロウは夕方に飛び立つ』とだけ書いてあった。最近出た本で読んだんだと」 「まあ……フクロウは夜行性だもの。暗くなってから狩りに出るんだよね」 「奇遇だな、俺もそう思った。けどそう簡単なことじゃないらしい。いろんな解釈ができる言葉だから、次の休暇に考えを聞かせてくれって書かれてた。ご丁寧に下線まで引いてな」    訪れなかった語らいの時を想ってか、リテラートは一瞬、遠い目をした。自覚があったようで、常に真っ直ぐだった唇の端に苦い笑みを浮かべて、「糸口が掴めなくて、友達に相談したよ」と告白する。    彼が聞いたという一つの解釈は、オリエンには難しくて、伯父の話を聞くようにすんなりとは頭に入ってこなかった。哲学という言葉が出てきたけれど、まずそれが呑み込めない。正解が分からないなりに、なんとか自分の言葉に直そうと、脳内で奮闘した。結果はこうだ。    フクロウ、つまり知恵は夕方に飛び立って、一日の終わりである夜に活動する。人の一生を一日に例えると、夕方や夜は晩年。人が知恵をまともに活かせるようになるのは、経験を重ねて、自分というものが完成する晩年だということ。 「もっともらしいけど、何か虚しくなるなあ。リテラートは? 友達に賛成?」 「いいや。何て言うか……。ああ、これだから喋るのは嫌だ。俺の解釈は、この絵で伝えようと思ってたんだけどな……。訊いたからにはおまえ、頑張って理解しろよ」    リテラートは筆を持たない方の手で、灰色の絵をつついた。
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