グリザイユの狩り場

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「一生なんて長い時間を一続きで考えてたら、始まりと終わりは赤ん坊と死体だとか、極端なことになる。一生は『今』の連続だ。だから『今』のことだけ考えればいい。俺は解釈を絵に起こすために、始まりを光の白、終わりを闇の黒とした。さっきも言ったが、問題の夕方は両方が混在するから灰色だな。それじゃ、『今』は何色だ? 『今』って一瞬は、始まると同時に終わってる。そしてまた始まっていく……」  オリエンの時間のイメージは従兄の言う「一続き」で、ひたすらに長く伸びる道だった。  それが、階段に変わった。自分は休むことなく上り続けている。踏み出すまで次の足場は見えない。足が離れた段は即座に崩れてしまう。振り返れても、後退はできない。 「そうか、『今』には始まりと終わりが両方……ってことは、灰色。夕方の色だ。『今』に生きてる僕たちは、長い長い夕暮れ時にいるってこと?」 「そうだ。知恵が、フクロウが飛べる時間が続いてるんだ。人は考え続けられる――生きてさえいれば。裏を返せば、考えてる間は生きてる、ってことだ。これは確かだぞ。だっておまえ、こうして考えてる間、寝たりぼけっとしたり……窓から飛び降りたりしないで、ここに踏みとどまってるだろ」    明らかになった従兄の鋭さに、オリエンは舌を巻いた。窓の掛け金に手を伸ばしたとき、従兄が声をかけてきたのはやはり、ただ危ないと咎めるためではなかったのだ。見抜かれていた。窓から落ちる自分を空想し、(くら)い期待と喜びを覚えていたと。それどころか、思考を巡らせることを避けていたことまでも。全部知っていて話を振ったのだ。考えさせ、現実に足止めするために。   「俺にも逃げたい気持ちは分かるんだよ。共感できる以上、おまえがどんな選択をしても、否定はできない。でも父さんが、あんな謎の言葉について意見交換しようとした魂胆が、おまえと話してて分かってきたから――敢えて言う。これは俺の解釈のまとめでもあるけど、いいか、父さんの言葉だと思って聞け」
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