1.最悪な一日

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「あともう一人、新人の加藤君、よろしく頼むよ」 (え……嘘)  驚いたのは私だけではないようだ。軽く室内がざわめく。当の加藤はか細い声ではい、と返事をし俯いている。 「あの……」  私は黙っておられず思わず手を挙げた。 「ん、なんだ、早坂」 「その……加藤さんにはまだ荷が重いんじゃないでしょうか。現場経験もありませんし。第一彼女にも一応コーラル物産の担当をしてもらっているわけですし。新人に現場二つは厳しくないですか」  すると課長は何やら言いにくそうに口をもごもごさせると加藤をチラリと見た。加藤は身を固くして俯いたままだ。 「ああ、そのことなんだがね、コーラル物産の担当は君にお願いしようと思ってるんだよ」 「はぁ?!」  思わず素っ頓狂な声が出た。私がコーラルの担当? 「なぜです、あそこは会社の規模こそそれなりに大きいですが保守業務だけですし新人に任せられる数少ない現場ですよね。どうして開発に携わってきた私が今更あんなところの保守業務を?」 「いやぁ、君も知ってると思うけど先方の担当が……」  コーラル物産の担当、川口チーフ。五十過ぎの脂ぎった若い女に目がないセクハラ野郎だ。 「先方の担当が何です?」  何となく話が見えてきた気がする。要は加藤がセクハラをされて課長に泣きついたのだろう。 「うーん、何というか……」 「加藤さんがセクハラされたから担当替えってわけですか。私のようなオバサンならセクハラもされないだろう、と」 「いやいや、そんなわけじゃないよ。コーラルさんは昔からの得意先だし、むしろ君のようなベテランが……」  課長は額の汗を拭きながら何やら言い訳じみたことを言っていた気がするがそこから先はよく覚えていない。私はもはや言い返す気力すら失い黙って資料に目を落としていた。会議は気まずい雰囲気で終わり各々自席へと戻る。 「あの……」  加藤が声をかけてきた。面倒なので聞こえないフリをしてメールチェックを続ける。 「あの、早坂先輩」  今度は少し大きな声で私の名前を呼んできた。皆の視線が私に集まるのを感じ仕方なく視線を上げ首を傾げる。 「はい、何でしょう」 「コーラル物産の件、私が力不足だったせいで申し訳ありませんでした」  深々と頭を下げる加藤の姿に内心舌打ちする思いだ。これではまるで私が悪者じゃないか。 「いえ、業務ですから」  周りの視線にいたたまれず席を立つ。部屋から出る瞬間ちらりと振り向くと金村君が加藤に何やら声をかけていた。 ――最悪だ。
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