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2.落とし物
週末、私は気分転換にドライブに出かけることにした。あれから私の前で新規プロジェクトの話をする人はいない。コーラル物産の担当変更の件も有耶無耶になっている。
(もう知るもんか)
大音量で好きな音楽を聴きながらあてもなく愛車を走らせる。私は昔からドライブが大好きで車を手放したくないがために都心を避け少し郊外に部屋を借りている。
「あーあ、どいつもこいつも何なのよ! 山岸も花村も! なぁにが生贄よ。ええ、どうせ私じゃ生贄の役割すら果たせませんよ!」
喚き散らしながら深くアクセルを踏み込む。
「だいたいあの加藤が悪いのよ。何よ自分は被害者みたいな顔しちゃって。若いしか取り柄がないんだから大人しくセクハラされときゃいいのに!!」
大声で叫びながら加藤を連れてコーラル物産に行ったときのことを思い出す。あのゲス野郎は私には目もくれずひたすら舐めまわすように加藤を見て、いやぁ若い女の子はかわいくていいねぇとのたまった。今時珍しい清々しいほどのセクハラっぷりだ。
「あの女、病気で入院でもしてくんないかな」
加藤なんかいなくなればいい。そうすれば私がメンバーになれる。そんなことを考えながら目的地も決めず更に車を走らせる。ふと気付くと見たことのない景色が広がっていた。かなり遠くまで来てしまったらしい。慌ててスマホのナビを起動して私は驚く。
「何、ここ。電波入らないわけ?」
どうやらかなり山奥まで来てしまったようだ。元来た道に戻ろうとしているのだがどこでどう間違えたのか気付けば細い一本道に入ってしまい戻ろうにも戻れない。日が暮れる前には大きな道路に出たい。焦った私は車から降り周りを見回した。
「あ……」
遠くに民家が数軒見える。どうやら集落があるようだ。スマホが使えない以上あそこで道を尋ねるしかあるまい。私は集落に向かい車を走らせた。道はどんどん細くなり車一台がようやく通れるほどだ。集落の入口に少し広くなっている場所があったのでそこに車を止め集落に続く一本道を歩く。左右には広い畑が広がっており土の香りがする。のどかな山間の村、その時はそう思った。
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