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「ひぃっ」
突然目の前に老婆が現れ思わず悲鳴を上げる。どうやら畑から上がってきたらしい。老婆はちらりと私を見て足早に立ち去ろうとした。
「あ、あの」
私の呼びかけを無視して立ち去ろうとする老婆のポケットから何かがはらりと落ちる。
「落ちましたよ!」
そう言って小走りに駆け寄り落とし物を手に取る。
(折り鶴……?)
それは折り鶴だった。黒い紙で折られた、真っ黒な折り鶴。老婆は振り向いて私から折り鶴を受け取る。
「おや、おや、最近どうにも腰が痛くてねぇ。拾ってくれてどうもありがとう」
「いえ。それよりちょっと道をお聞きしたいのですが」
老婆はついておいでと言い先に立って歩き始めた。
「あ、国道に出る道を聞きたいだけなんです」
そう言っても老婆は足を止めない。仕方なくついていくと道の左手にある一軒の家の前で止まりここで待っておいで、と言う。老婆はがらりと戸を開け「松蔵さん、松蔵さん」と呼ばわった。
「おお、留さんかい。どうしなすった」
目をしょぼつかせながら現れたのはこれまたかなり年を取った男だ。留と呼ばれた老婆が何やら耳打ちすると、男は私の顔をまじまじと見てニタリと嗤う。
(何なの、こいつら。感じ悪い)
男は一旦家に戻るとすぐに出てきた。手に眼鏡ケースらしきものを持っている。
「どれ、お困りですかな」
そう言って私の前に立ち眼鏡ケースを開く。
「あ……」
何かがひらりと落ち私は反射的に受け止めた。
「ああ、すまんすまん、最近ずいぶん老眼が進んでしまってのぉ。ふぉふぉふぉ。拾ってくれてどうもありがとう」
――また黒い折り鶴。
男が落としたのも先ほど老婆が落としたのと同じ黒い折り鶴だった。村に伝わるおまじないか何かなのだろうか。少し気味が悪くなってきた私は車に戻ろうと踵を返す。
「あ、お姉ちゃん、待って」
すると今度は道の右手にある家から小学校低学年ぐらいの少女が飛び出してきた。その後ろには母親らしき若い女性が立っている。若い人なら大丈夫だろう。私が母親に話かけようとした時、少女が私の目の前で思いっきり転んだ。慌てて助け起こそうと手を差し伸べると少女は私の手に向かって何か落とした。思わず受け止めて眉を顰める。
――まただ。また黒い折り鶴。
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