34人が本棚に入れています
本棚に追加
「ねぇ、この鶴って……」
少女はニタリと嗤いながら折り鶴をひったくるようにして私の手からもぎ取る。
「あのね、私心臓が悪くてこのままだと死んじゃうの。お姉さん、拾ってくれてどうもありがとう」
そう言って少女は母親の元へと走り去った。母親はニヤニヤしながらこちらに向かって頭を下げる。
(何、ここの連中。気持ち悪い)
すると、村の奥の方から何やらざわめきが聞こえてきた。ほとんどが老人だ。皆一様に手に何かを持ってこちらに向かってくる。
(あいつらが手に持っているの……黒い折り鶴だ)
私は一目散に逃げ出した。なぜだかわからないがこのままここにいてはいけない、そう思ったのだ。車の置いてある場所までがひどく遠じる。
(振り向いちゃいけない)
自分にそう言い聞かせ車を目指す。何とか辿り着き車内に滑り込むと電波が入ってくれないものかとスマホに目を落とした。その時。
――バァン
「ひぃっ」
顔を上げると村の人たちが車を取り囲んでいる。皆ニヤニヤしながら車を叩いていた。私はエンジンをかけ急いで車を発進させる。何人かにぶつかったような感触があったが気にせずアクセルを踏み込んだ。どこまでも彼らが追いかけてくるような気がしてひたすら車を走らせる。結局どうやって戻ったのかわからないが気付けば国道に出ていた。
気分転換のつもりが疲れ果てて帰宅する羽目になり思わず舌打ちする。帰ってから車で走っていたであろう場所を検索してみたが村らしきものは見つからなかった。
(あれは何だったの……)
その夜、黒い折り鶴を持った村の住人に追い回される悪夢にうなされた。彼らは車で跳ね飛ばされてもニタニタと嗤いながらどこまでも追って来る。朝目覚めると全身に嫌な汗をかいていた。
最初のコメントを投稿しよう!